運命の時 診断結果 : 10
2015年4月22日
初診から1週間後、正式な診断が下される日。
妻とがんセンターへ。
病状がかなり進んでいることは、
これまでの状況からも明らかであり、
「余命宣告」
もあり得るかもしれないと覚悟していた。
しかし、女性はやっぱり強い。
がんであることを告げた瞬間にあれだけ取り乱していた彼女が、
泣き明かした翌日にはもう既に、
「絶対治そう。私も気持ちを強くもって頑張るから、あなたもがんばろう!」
と力強く励ましてくれるのだ。
気持ちだけではどうにもならない現実もある、
と諦めつつあった一方で、
無理矢理にでも強く明るく前向きに振る舞おうとするその姿に、
深い感謝と、そして申し訳なさが混じって、
まっすぐに顔を合わせられない。
春の暖かい日差しの中を、
ゆっくりと進む。
高速を使わずにあえて下道を行く。
「アヴェ・マリア」
のオムニバス盤の音楽がゆったりと流れる。
今この瞬間が、永遠に続けばいいのに、、、、。
午後2時からの予約に、ほぼ時間通りに診察室に通される。
すでに椅子が2つ用意されており、
我々夫婦に相対する形で頭頸科部長のM先生と看護師さん。
そしてなぜか我々2人の後ろにも1人、
看護師さんが立っていた。
着席してすぐに、M先生から
「悪性腫瘍、舌癌」
であることが冷静に淡々と告げられる。
しかも進行してかなり大きくなっており、
ステージⅣa であるとも。
妻、思わず両手で顔を覆い嗚咽する。
慰めようと妻の背中に自分が手を伸ばしたのとほぼ同時に、
後ろに立つ看護師さんが妻の両肩を抱きかかえ、優しく慰める。
そうか、このためにわざわざもう1人看護師さんがいたのか。
厳しくつらい現実を伝えることが多いであろう、
この病院ならではの行き届いた配慮だったのだ。
ありがたい。
細かい話はあまり頭に入ってこず、
余命宣告も覚悟していただけに「これで終わったかな」
という思いだけが、ぼんやりとした頭の中を駆け巡る。
すまない、妻よ、息子よ、わんこよ。
だが、
絶望の淵に追いやられたそんな我々に、
M先生の短いたった一言がひと筋の光明を灯すことになる。
ステージⅣという難しい段階だけれども、
「まだ打つ手はある」
その一言を聞いた瞬間に、私たちは顔を見合わせ、
奈落の底から
遙かかなたに希望の光を見たのだった。