11月10日 (金)雨 退院して3018日 / 手術から3100日
大病を得て4ヶ月にも及ぶ入院生活を過ごしたのは、 もう8年も前のことになってしまった。 当時の一喜一憂の場面が事あるごとに思い出されて、今となってはなにやら懐かしい。
先日、入院に関わる各種書類をまとめて放り込んでいるクリアファイルを 取り出して何気なくパラパラとめくってみた。 40枚のポケットでは収まりきらずぱんぱんに膨らんでいる。
その中の、「口腔がん根治切除術に関する説明書」 というぎっちりA4 4枚にも及ぶ項目の 「舌・歯肉・口腔底の切除によっておきること」の部分に目が留まる。
列挙してみる。 1 創部とその周辺、耳たぶの感覚低下 2 上肢挙上制限(リハビリ必要) 3 口角が下がるなどの顔面神経麻痺 4 舌のジンジンとするしびれ(全摘でもそう感じる) 5 摂食・嚥下障害(亜全摘以上になるとむせや誤嚥多く、肺炎を起こすことがあり、 食べ物の形態を選ぶ リハビリ必要) 6 咀嚼障害 (堅いものは食べられず、軟らかい食事が基本に) 7 開口障害(リハビリ必要) 8 構音障害(切除範囲により程度の差があり、リハビリ必要)
自分の場合、舌根部4分の1のみ残るほぼ全摘に近いので、 上記の不具合のほとんどを経験した。 そして1と4については、もう今以上の改善は難しいのだろうが、 そんなことはたいした問題でなく、違和感あってもすぐに慣れる。
一般的に日常生活を送る上でいちばん大きな問題となるのは、 5、6、8に違いないが、 自分の場合、大方の医療関係者の常識を打ち破り、 むせや誤嚥など退院してから今まで、1度もない。 堅いものが食べられない、なんてことは全くなく今では何でも食べられる。 ただ、パンとかかぼちゃみたいなものは確かに食べにくく苦手とするが、 水分があれば大丈夫だ。 ベロのほとんどを失ったのだから味を感じられず、 食べる楽しみも失われるのではないかと落ち込んだときもあったが、 それさえも杞憂に終わった。 味蕾は、舌だけでなく、ほっぺや喉にもある。そりゃ元通りとはいかないが、 元の7~8割位は感じられていると思う。 それどころか、100%いけていると感じる食べ物も多い。
8の喋りに関しても退院して数ヶ月は、 電話や宅配便には居留守を使い、 買い物には、話す必要がない店限定で出かけるなど、 人との接触を恐れてびくびくしながら暮らしていた。 ところが自分なりにリハビリを重ねてある程度回復し、 そしてこのことが更に重要なのだけど、 「うまく話せない」という自身を受け入れるとともに、 そのことを外へさらけ出す度胸が据わってからは、 電話で飲み屋の予約もするし、 もうどこへでも出かけ、誰とでも関われるようになった。 ただし、全摘であるが故にいくら練習しても出せない音はある。 そこは発音しやすい他の言い回しに変えるとか、 前後の言葉で相手に類推してもらえるようにするとかの工夫が必要だ。
そして悲しいことに、端から自分らのような喋りにくい者に対して、 聞く耳を「持とうとしない」人種が少なからず存在するのも現実。 そういう類いの人には、いくら丁寧に話しても心通わず通じない。 そんなときには、速やかに言葉少なくその人から離れることにしている。 そしてそれこそが Cancer Gift であると心ひそかに感謝する。 この病気を得たことで、人を見る目がひとつ養われたと。
同病同士の方々、 食もお喋りも、今よりも必ずよくなりますから。 口が開かなかったり腕が上がらなかったりなど、 数ヶ月軽くリハビリしつつ日常生活を送っておれば自然に改善しますから。 退院してしばらくは、食べることが苦痛そのもので「食は修行なり」などと 自嘲気味にうそぶいていたこの私が、 現在はいやしげに食を楽しんでいるのですから。
大事なことは、 諦めずに微速前進。 1歩前進2歩後退で、たまに3歩前進。 そして、以前とは違った自分を受け入れ、 それをありのまま外へさらけ出す第一歩を踏み出すこと。
健闘、心から祈っています。