tongue twister のブログ

平成27年5月26日、舌癌(StageⅣa)の手術(舌亜全摘・両リンパ節郭清・腹直筋皮弁による再建術)を受けました。ところが数日後の6月1日朝の診察で、まったくの突然に緊急再手術決定。なんと、最初の手術20時間、再手術13時間、計33時間(笑)(゜o゜;;

心身共に回復してきた今、それらの日々を振り返り、今度は私が誰かを励ますことができれば、との思いでブログ初挑戦です。 

45回目の : 1048

4月19日(水)晴 退院して2817日 / 手術から2899日


今日は術後8年、
退院して45回目のがんセンター診察日。
血液検査、頸部~胸部造影CT、上部内視鏡などの諸検査と、
頭頸科、歯科、皮膚科の診察。


下道を使い約50km75分の行きの車中では、
験担ぎも兼ねて今回もグレゴリオ聖歌が厳かに流れる。
最悪の結果になった場合の身の処し方などを、
あれこれとシミュレーションするのも今までと同じ。
何度回数を重ねても、
詳しい検査の前は嫌なもんだ。


特に今回は、
ひと月程前からひとつふたつ気になっていることもあり、
診察室に入る前の緊張感は大きかった。




で、診察の結果は、
胃に経過観察のポリープがある以外、まったく問題なかった。


ほんの少しだけ拍子抜けしないでもなかったが、
今回ばかりは安堵と喜びもひとしおだ。
これで今週末予定の外吞みで、また懲りずに遺憾なく美味い酒が飲めるわい。



それにしても、
ご夫婦でセンターに来られている方々の様子は、
正視に耐えないほど暗澹としたものだ。
こちらまで気が滅入りそうになるが、
どうか明るい展望が待ち受けていますように。


8年前の、主治医による “ステージ4” の告知の場面が甦る。


  

八度目の徒名草 : 1047

4月6日(木)曇時々小雨 退院して2804日 / 手術から2886日


桜は哀しくも散り際がいい。
はらはらと舞い散る姿に、短い命のその儚さが際立つ。



桜のいにしえからの異称に、
「徒名草」もしくは「仇名草」というのがあるが、
なんと大和心を揺さぶる言葉だろう。


今がまさに、
「桜吹雪」に「花筏」の頃だ。


桜の頃の変わりやすくすっきりと晴れない様子を「花曇」
そして急に冷え込むのを「花冷え」
花びらを散らしてしまう雨や水に流れていく様は「桜流し」
やがて時が経ち散り残ったものを「残花」と。


更には花見で疲れることは「花疲れ」とも。


桜にまつわる風情ある言葉は、
枚挙にいとまが無い。


全国的に荒れ模様の天候。
どうやら今日明日で桜流しとなりそうだ。



大病を得てのち、八度目の徒名草。
あの時、これが今生最後の桜かと、
病院への道中、大きな桜の木の下に車を止め、
しばしぼんやりと眺めたことなども、
今となっては、
薄桃色に霞む忘れられぬ光景。


  

半世紀前の記憶 : 1046

3月26日(日)雨 退院して2793日 / 手術から2875日


スギからヒノキへと花粉が変わりつつあるようで、
ようやく花粉症が治まりかけてきた。
老化が幸いし、若い頃ほどその症状はひどく出なくなってきたけれど、
それでも目のかゆみや鼻水など耐えがたいときがある。
そしてその苦痛が、
春という季節をあまり好きになれない理由のひとつでもある。



先日書斎の本棚をなんとなく眺めていてある本に目がいった時に、
ほんとうにまったくの唐突に、
半世紀も前の中学生の時のある記憶が甦ってきた。


ロシアの文豪、ソルジェニーツインの「ガン病棟」
上下2巻からなる長編だ。
登場人物としていろんな癌患者がいるのだけれど、
その中に「舌がん」に苦しむ患者がいる。


甦った記憶というのが、
「へえ、べろなんかにもがんができるんだ。
 べろに放射線を放つ針を何本も突き刺すだなんて痛いだろうなあ。
 最終的にはべろを切除するだなんて、その後の生活ははどうなるんだろう」
 べろのがんだけは勘弁して欲しいもんだ」
といった子どもらしい素直な驚きや恐怖の記憶だ。


ところが、そんな小説で味わった恐怖と絶望の日々が、
それから約40年後に自分の身に降りかかるとは、
どうして想像できただろう。



作品中のその患者は、
治療がうまくいかず何度も手術を繰り返したことは記憶にあるが、
その後亡くなったのかどうかは記憶にない。
だが現実の自分は、
手術がうまくいき今も元気に生活している。



それにしても中学生でロシア文学。
しかもノーベル賞作家の作品だなんて、
まあなんと背伸びしたことよと、
今となっては苦笑いするほかない。