半世紀前の記憶 : 1046
3月26日(日)雨 退院して2793日 / 手術から2875日
スギからヒノキへと花粉が変わりつつあるようで、
ようやく花粉症が治まりかけてきた。
老化が幸いし、若い頃ほどその症状はひどく出なくなってきたけれど、
それでも目のかゆみや鼻水など耐えがたいときがある。
そしてその苦痛が、
春という季節をあまり好きになれない理由のひとつでもある。
先日書斎の本棚をなんとなく眺めていてある本に目がいった時に、
ほんとうにまったくの唐突に、
半世紀も前の中学生の時のある記憶が甦ってきた。
ロシアの文豪、ソルジェニーツインの「ガン病棟」
上下2巻からなる長編だ。
登場人物としていろんな癌患者がいるのだけれど、
その中に「舌がん」に苦しむ患者がいる。
甦った記憶というのが、
「へえ、べろなんかにもがんができるんだ。
べろに放射線を放つ針を何本も突き刺すだなんて痛いだろうなあ。
最終的にはべろを切除するだなんて、その後の生活ははどうなるんだろう」
べろのがんだけは勘弁して欲しいもんだ」
といった子どもらしい素直な驚きや恐怖の記憶だ。
ところが、そんな小説で味わった恐怖と絶望の日々が、
それから約40年後に自分の身に降りかかるとは、
どうして想像できただろう。
作品中のその患者は、
治療がうまくいかず何度も手術を繰り返したことは記憶にあるが、
その後亡くなったのかどうかは記憶にない。
だが現実の自分は、
手術がうまくいき今も元気に生活している。
それにしても中学生でロシア文学。
しかもノーベル賞作家の作品だなんて、
まあなんと背伸びしたことよと、
今となっては苦笑いするほかない。