tongue twister のブログ

平成27年5月26日、舌癌(StageⅣa)の手術(舌亜全摘・両リンパ節郭清・腹直筋皮弁による再建術)を受けました。ところが数日後の6月1日朝の診察で、まったくの突然に緊急再手術決定。なんと、最初の手術20時間、再手術13時間、計33時間(笑)(゜o゜;;

心身共に回復してきた今、それらの日々を振り返り、今度は私が誰かを励ますことができれば、との思いでブログ初挑戦です。 

The sun also rises on you. : 1059

11月10日(金)雨 退院して3018日 / 手術から3100日


大病を得て4ヶ月にも及ぶ入院生活を過ごしたのは、
もう8年も前のことになってしまった。
当時の一喜一憂の場面が事あるごとに思い出されて、今となってはなにやら懐かしい。


先日、入院に関わる各種書類をまとめて放り込んでいるクリアファイルを
取り出して何気なくパラパラとめくってみた。
40枚のポケットでは収まりきらずぱんぱんに膨らんでいる。


その中の、「口腔がん根治切除術に関する説明書」
というぎっちりA4 4枚にも及ぶ項目の
「舌・歯肉・口腔底の切除によっておきること」の部分に目が留まる。


列挙してみる。
1  創部とその周辺、耳たぶの感覚低下
2  上肢挙上制限(リハビリ必要)
3  口角が下がるなどの顔面神経麻痺 
4  舌のジンジンとするしびれ(全摘でもそう感じる)
5  摂食・嚥下障害(亜全摘以上になるとむせや誤嚥多く、肺炎を起こすことがあり、
         食べ物の形態を選ぶ リハビリ必要)
6  咀嚼障害  (堅いものは食べられず、軟らかい食事が基本に)
7  開口障害(リハビリ必要)
8  構音障害(切除範囲により程度の差があり、リハビリ必要)


自分の場合、舌根部4分の1のみ残るほぼ全摘に近いので、
上記の不具合のほとんどを経験した。
そして1と4については、もう今以上の改善は難しいのだろうが、
そんなことはたいした問題でなく、違和感あってもすぐに慣れる。


一般的に日常生活を送る上でいちばん大きな問題となるのは、
5、6、8に違いないが、
自分の場合、大方の医療関係者の常識を打ち破り、
むせや誤嚥など退院してから今まで、1度もない。
堅いものが食べられない、なんてことは全くなく今では何でも食べられる。
ただ、パンとかかぼちゃみたいなものは確かに食べにくく苦手とするが、
水分があれば大丈夫だ。
ベロのほとんどを失ったのだから味を感じられず、
食べる楽しみも失われるのではないかと落ち込んだときもあったが、
それさえも杞憂に終わった。
味蕾は、舌だけでなく、ほっぺや喉にもある。そりゃ元通りとはいかないが、
元の7~8割位は感じられていると思う。
それどころか、100%いけていると感じる食べ物も多い。


8の喋りに関しても退院して数ヶ月は、
電話や宅配便には居留守を使い、
買い物には、話す必要がない店限定で出かけるなど、
人との接触を恐れてびくびくしながら暮らしていた。
ところが自分なりにリハビリを重ねてある程度回復し、
そしてこのことが更に重要なのだけど、
「うまく話せない」という自身を受け入れるとともに、
そのことを外へさらけ出す度胸が据わってからは、
電話で飲み屋の予約もするし、
もうどこへでも出かけ、誰とでも関われるようになった。
ただし、全摘であるが故にいくら練習しても出せない音はある。
そこは発音しやすい他の言い回しに変えるとか、
前後の言葉で相手に類推してもらえるようにするとかの工夫が必要だ。


そして悲しいことに、端から自分らのような喋りにくい者に対して、
聞く耳を「持とうとしない」人種が少なからず存在するのも現実。
そういう類いの人には、いくら丁寧に話しても心通わず通じない。
そんなときには、速やかに言葉少なくその人から離れることにしている。
そしてそれこそが Cancer Gift であると心ひそかに感謝する。
この病気を得たことで、人を見る目がひとつ養われたと。



同病同士の方々、
食もお喋りも、今よりも必ずよくなりますから。
口が開かなかったり腕が上がらなかったりなど、
数ヶ月軽くリハビリしつつ日常生活を送っておれば自然に改善しますから。
退院してしばらくは、食べることが苦痛そのもので「食は修行なり」などと
自嘲気味にうそぶいていたこの私が、
現在はいやしげに食を楽しんでいるのですから。


大事なことは、
諦めずに微速前進。
1歩前進2歩後退で、たまに3歩前進。
そして、以前とは違った自分を受け入れ、
それをありのまま外へさらけ出す第一歩を踏み出すこと。


健闘、心から祈っています。


またもや ナニをする!! : 1058

11月4日(土)晴 退院して3012日 / 手術から3094日


11月だというのにまだ夏日だなんて
いったいどうなっているのかねえ。


古来から慣れ親しまれてきた季節ごとの風情が、
年々希薄になっていく。
立春、春分、夏至、大暑、秋分、冬至、大寒、、、。
太陽に基づいた二十四節気も、
ここまで自然の有り様が昔とずれてくると
もうそれら言葉の存在の意味を失ってしまうのではないかと思う。



以前から、
12月になったら丹後半島へ一人旅へ出かけようかと目論んでいたが、
急速に熱が冷めてしまった。
昨日の朝ニュースでオーバーツーリズムに関する報道だったが、
「舟屋」で有名な伊根あたりもやはり同様の状況らしい。
もう日本全国どこへ行っても、
スマホ片手にいつまでも場所を独占しつづけるような
傍若無人の観光客であふれかえっているのか。
今年2月の、五島列島への旅を思い立ったときも、
同様の事情で急遽断念したというのに。


私は、
芭蕉や牧水をきどった漂泊の旅がしたい!
人でごった返すあつかましいところへは行きたくないのだ!!


もうほんとうに、
いったい私の旅にナニをする!!!


今夜も酒を吞みながら、
傾向を探り、対策を練る。


むかわり : 1057

10月30日(火)晴 退院して3007日 / 手術から3089日


日中はまだ暑い暑いと嘆いているうちに、
ようやく朝晩本格的に冷え込んできた。
今朝は8度台にまで下がった。
おお、さむい。




今日は敬愛してやまない先輩Tさんの一周忌だ。


1年前の今日昼下がり、
訃報の知らせが届いたときの驚きと悲しみの瞬間が甦る。
思えばこの1年、何かにつけて大きな喪失感を覚えながら過ごしてきた。


人なつこいあの笑顔と野太い声がしばしば思い出される。
豪快な鯨飲ぶりが忘れられない。
馴染みのスナックでママさんの腰に手を回し、
目を閉じて切々と “for you” を歌う姿が懐かしい。


不謹慎だが、とっくに鬼籍に入っている自身の親のことをそこまで思うことはない。
それほどまでにTさんは、今も私の中に鮮烈に生き続けている。



一周忌の別名に「むかわり」という言葉があることを知った。
語源や解釈にはいろいろあり、「身が代わる」から「むかわる」
そして「むかわり」となったとする説も。
とするならば、Tさんはどんなものに「身が代わって」
新しく誕生しているのだろう。
でも、生まれ変わっても、
やっぱりTさんはあのTさん以外にはとうてい考えられない。
きっとあのままに違いない。



褒められることなどほとんどなかった我が人生。
でも、あなたから「いい男だ」とよく言っていただいたこと。
とっても自信になりました。
そしてそのことを大切な思い出としてずっと携えていきます。



Tさん、
改めてありがとうございました。
何年後になるか分かりませんが、
ぜひまた飲りましょう!