忘れ得ぬ光景 : 530
1月16日(火) 晴 退院して878日 / 手術から960日
この病にまつわることで
絶対に忘れ得ぬ光景がいくつかある。
そのひとつが、
「家族の人と来て下さい」と言われ
妻と2人で訪れたがんセンター。
主治医と相対する格好で
丸椅子にふたり並んで座った頭頸科の診察室。
妻のすぐうしろには看護師さんが立っている。
主治医の口から
悪性腫瘍
舌がん
StageⅣ
と3つの単語が余計な言葉を挟むことなく
淡々と順に告げられる。
その3つ目の単語を聞いた瞬間に
前のめりに突っ伏して両手で顔を覆い
軽く嗚咽の声を漏らす妻。
慰めようと妻の腰に手を回そうとするより早く、
うしろに立つ看護師さんが妻を抱きしめるように両手で包み込む。
主治医が再び口を開き始めるまでの
静止したような現実味のない短い時間の中で、
放心した頭の中を
「すてーじ ふぉー」
という言葉が
風に吹かれて転がるようにくるくる回る。
そして
「終わったかな、、、」
とも思った。
それが2年と8ヶ月前、
桜舞い散る頃。